一筆参上 from Tー補綴.jp


「レコード」

初めて買ったのはレコードでした。70年代生まれの私が、初めて自分で買った音楽媒体はLP(レコード)でした。当時、新幹線のこだましか停車しない愛知県の片田舎の駅から25分ほど電車に乗り、さらに自転車で15分かかる大田舎に住んでいた私にとって「街に行ってレコードを買う」ことは一大イベントでした。こだましか停車しない片田舎の町とはいえ、その地域では比較的賑わっておりRIZINでおなじみの兄弟の出身地、大田舎の中学生だった私はカツアゲされても大丈夫なように靴下に帰りの電車賃を忍ばせてレコードショップに向かいました。当時「○○レコード」との店名でしたが、すでに1/3程度はCDコーナーでした。しかし、レコードが主流でCDはまだ「コーナー」でした。わき目もふらず目当てのLPを買い、速足で帰って早速レコードに針を落としたのを覚えています。

結局レコードを買ったのはその1枚だけでその後はCDとなり、家で音楽を聴くのはステレオ(レコード)→ミニコンポ・ラジカセ(CD・カセットテープ)となり、通学・通勤はウォークマン(カセットテープ)→CDウォークマン→MDウォークマン→iPodへと変わり、カーオーディオもカセットテープ→CD・MD→ハードディスクと変わり今ではBluetooth対応カーオーディオで形としての音楽媒体を必要とせず、ダウンロードが当たり前の時代になりました。

音楽をダウンロードで入手するのが当たり前の時代になると「ジャケ買い(内容を知らず店頭でデザインが気に入って買う)」などという事も死語となり、無駄はなくなりましたが新たな発見もなくなりました。

先日、たいした趣味もなく、これではいけないと思い立って始めたのが「レコード」でした。レコードはノイズや回転ムラがあるといった欠点がありますが、再生できる周波数帯が広いという利点があり音が深いそうです。店員に「どうですか?かなり違うでしょ?」と試し聞きをさせてもらっても、生来の違いの分からない男ですので、そんな繊細な違いが分かるはずもなく薦められるがまま、レコートプレーヤー・CDプレーヤー・アンプ・スピーカーを購入してしまいました。

買って分かったのは、便利さに慣れてしまうと2度と戻れない事でした。レコードは大きくかさばり収納に場所をとり、聞きたい曲をすぐには頭出しできない、作業用のBGMとして聞いていても意外と片面の時間が短くひっくり返す手間が面倒などの不便さを感じてしまい、今ではほぼCD専用オーディオ化しています。

一度その趣味の世界に深くのめりこみ抜け出せなることを「沼」と言うそうですが、「レコード沼」も「アンプ沼」も「スピーカー沼」もせっかちでなく、心に余裕のある「大人向けの沼」でした。


水頭英樹